エディション・エフ
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社名
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株式会社エフ
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出版者名
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エディション・エフ
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代表
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岡本千津
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所在地
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〒604-8251 京都市中京区油小路通三条下ル148
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電話
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075-754-8142
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メール
設立の言葉
エディション・エフの仕事は「手と心の記憶に残る本づくり」です。
誰が最初に考えたのか、本のかたちはとてもよくできていると思います。ページをめくるたび、そこに新たな発見があったり思わぬ展開が待っていたりします。小さな四角い紙の向こう側に、想像の世界を自由に広げることもできます。
指先で紙端をもち、ページをめくる。単純な動作の繰り返しが、本を読む人に無限の歓びや感動、興奮や(内容によっては)怒りをもたらすのだから、不思議なものです。
片手で本の背を支え、もう片方の手で表紙を開き、指先で一枚ずつページをめくっていく。
本の厚み、背の硬さ、カバーの光沢、本文ページのざらつき。
本は、読む者の掌や指先にその感触を残します。
内容の素晴しい本は、当然ながら心に深く刻まれます。
読者の手と心の両方に、しっかりと記憶される。
エディション・エフは、そうした本づくりに努めます。
紙を意識したい
かつて、知識や情報を得るために人は書物をひもときました。未知の世界へ想像の翼を広げるために子どもは絵本のページをめくりました。しかし、いま、そのような行為はパソコンのキーを叩いたりスマホやタブレットの画面をタップすることに取って代わられつつあります。
通勤時に器用に小さくたたんだ新聞を読むサラリーマンの姿、網棚に置き忘れられた雑誌。電車内のそうした光景が極端に少なくなりました。夢中で小説本を読む人や、一心不乱に豆単とにらめっこする学生も、ほとんどいません。では乗客は電車の中で何も読まなくなったのかといえば、そうではありません。ゲームをしている人もいるけれど、スマホを持つほとんどの人が何かを「読んで」います。友達とのLINEであれ、メールやブログであれ、ショッピングサイトの記述であれ、新聞社のデジタル配信であれ、電子書籍であれ、文字や文章を読んでいることに違いはありません。「活字離れがいわれて久しい」といわれてさらに久しいけれど、離れるどころではありません。消費される文字情報はむしろ増えているでしょう。
人が離れようとしているのは字ではなく「紙」なのです。
役所など職場ではペーパーレス化が進み、ITの進化で一般家庭においても紙製品が存在感を失いつつあります。預金通帳、家計簿、日記帳。それらはとっくにパソコンの中に収まっています。学校ではパソコンとタブレットを使って子どもたちが勉強しています。近頃は母子手帳もスマホ版が登場しています。
紙が、生活の中から去っていきます。
中学生のとき、ある知人から高村光太郎の詩集を贈られました。光太郎の「道程」が好きだといったのを覚えていてくれたのです。その詩集は小さな本ながらハードカバーでケース入りでした。函から出し、手にした硬い表紙の冷たさ。開いて扉頁をめくるとそこは研ぎ澄まされた言葉の並ぶ、光太郎の世界でした。ページをめくるたび、光太郎の詩が新鮮な香りとともに私の中へ飛び込んできました。いまでも大切にしているその詩集を手にすると、受け取ったときの感動が甦ってくるのです。
エディション・エフも、オフィスはペーパーレスを心がけています。
そのぶん、紙であってほしいものには、こだわりたいのです。
エディション・エフは、紙の手触りを大切にして、本をつくっていきます。
エディション・エフのFのこと
エディションという言葉は、英語では主に「版」を表します。初版、第二版、重版などというときの「版」です。いっぽう、フランス語では出版者、出版業を表します。「エディション・エフ」はこれに依っていますので、欧文では仏単語の「édition」を用いて「édition F」と表記しています。
「F」にはいろいろな思いを込めています。
私が仏日翻訳者でもあることからfrançais(フランス語)のF。
そういえば英単語にもFで始まる好きな言葉は、あります。free、friend、funnyなどなど。
日本語だと、「F」といえば「ふ」ですよね。なんといっても「ふ」といえば「麩」でしょう(笑)。麩は素晴しい食品です。
それはともかく、「ふ」で始まる言葉は素敵です。
浮遊、風雅、普遍、不易、船出、富士山、風呂、布団(笑)。
不思議、不真面目、不埒、不条理、不断、不屈、不言実行。
ふみ、ふしめ、ふつう、ふるさと……。
キリがないので、フランス語に戻ります。
fraternitéという言葉があります。私の好きな言葉のひとつです。
フランス共和国の標語「自由・平等・博愛」は広く知られていますが、その「博愛」にあたるのがこのfraternitéです。日本語では「博愛」という訳語をあてていますが、「博愛」というと、あまねく万人を分け隔てなく愛する、という感じです。
fraternitéは「兄弟愛」を意味します。兄弟愛は兄弟姉妹間の愛情のこと、といえばそのとおりなんですが、自由・平等と並んでこの語が掲げられているわけは「きょうだいを愛するように共同体の構成員を愛せよ」ということだと思います。誰をも等しく愛するというよりは、(目に見える範囲でいいから)隣人や同僚、地域の友人や身近な仲間たちを愛する(よいつきあいをする)ことによって、互いの信頼を高める。
自分の所属する村や町などの共同体には血縁ではない他人もいて、無視はできません。いっそ親子愛や夫婦愛を超越した愛情でつながることができれば素晴しい。
エディション・エフのFには、fraternitéのもつこのような意味を込めました。
ひとりひとりが、共同体内の他者に対してもちたい、兄弟愛。
エディション・エフは、エディション・エフのつくった本を手にしてくださった人たちのあいだに、温かな共感が生まれることを願って、本づくりにいそしみたいと考えています。